大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成2年(あ)549号 決定 1994年10月03日

本店所在地

京都市南区上鳥羽南中ノ坪町一九番地

京阪工事株式会社

右代表者代表取締役

佐藤好夫

本籍・住居

京都市南区吉祥院中河原里北町四一番地

会社役員

佐藤好夫

昭和九年一月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成二年一月三〇日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人大槻龍馬、同平田友三の上告趣意のうち、憲法三九条違反をいう点は、原審において主張、判断を経ていない事項に関する主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切ではなく、その余は、憲法一四条、三一条、三八条一項違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張でであって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大白勝 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)

平成二年(あ)第五四九号

上告趣意書

法人税法違反 被告人 京阪工事株式会社

同 佐藤好夫

右両名に対する頭書被告事件につき、平成二年一月三〇日、大阪高等裁判所が言渡した判決に対し、上告を申し立てた理由は左記のとおりである。

平成二年七月二五日

弁護人 大槻龍馬

同 平田友三

最高裁判所第一小法廷 御中

目次

第一点 事実誤認・・・・・・1丁表

一、架空外注費に関する事実誤認・・・・・・1丁表

1.原判決総論部分の誤り・・・・・・1丁表

2.各下請先に関する誤り・・・・・・6丁裏

(一) 坂本組こと坂本勇・・・・・・6丁裏

(二) 三京工業所こと西沢一郎・・・・・・9丁裏

(三) 堤組こと堤梅雄・・・・・・12丁表

(四) 株式会社旭基礎工業・・・・・・14丁表

(五) 池田組こと池田武雄・・・・・・15丁裏

(六) 並木組こと並木輝人・・・・・・18丁裏

(七) 大平組こと大平静雄・・・・・・21丁裏

(八) エスケー工事、光映技術・・・・・・23丁裏

二、機械の購入代金による架空原価について・・・・・・25丁裏

三、交際接待費について・・・・・・29丁表

1.完成工事原価組入れ・・・・・・29丁表

雑費組入れ主張文・・・・・・29丁表

2.一般管理費組入れ主張文・・・・・・32丁裏

(一) 福利厚生費組入れ主張分・・・・・・32丁裏

(二) 旅費交通費組入れ主張分・・・・・・34丁裏

(三) 諸会費組入れ主張分・・・・・・35丁裏

四、貸付金について・・・・・・37丁裏

1.野口佐治兵衛分・・・・・・37丁裏

2.光映技術分・・・・・・39丁表

五、完成工事高について・・・・・・40丁表

六、完成工事原価について・・・・・・42丁表

第二点 事実誤認ないし法令違反・憲法三一条違反・・・・・・43丁裏

第三点 憲法三一条、刑事訴訟法三八〇条、三九七条一項違反及び高等裁判所判例違反・・・・・・45丁表

第四点 憲法三一条違反・・・・・・47丁裏

第五点 憲法三九条違反・・・・・・51丁表

第六点 憲法一四条違反・・・・・・52丁裏

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、破棄しなければ著しく正義に反する。

一、架空外注費に関する事実誤認

1.原判決総論部分の誤り

(一) 原判決は、弁護人の

「第一審判決が、工事未払金台帳(昭和五〇年三月期、すなわち同四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度《以下、昭和四九年度分ともいう。》のもの、原審裁判所昭和六一年押二二四号符号7、以下、押収番号を示す場合、押番号はすべて同一であるから、符号番号のみを記載されているもの。)及び工事未払金(外注)二綴(昭和五一年三月期、すなわち同五〇年四月一日から同五一年三月三一日までの事業年度《以下、昭和五〇年度分ともいう》のもの、符号8《物件自体の8の1、8の2と表示されているもの》、以下符号7と同様、工事未払金台帳と表示されるもの)に、下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かについては、それらの未成工事支出金が各外注台帳(符号10《昭和五〇年度のもの》、11《昭和四九年度のもの》、これらは、いずれも下請支払明細表綴であるが、原審以来証拠の標目及び押収物件の標目として、外注台帳という名称が使用されているので、原判決においても、証拠の標目を示す場合はこれに従うとされているもの)に記載されているかどうか、その計上後、特段の事情がないのにその支払いが遅れていないかどうか、という点を重要な基準としてこれを判断し、原判示の1、3ないし8の各外注加工費を架空であると認めたのは、すべて事実誤認であり、第一審判決がそのように事実を誤認した根本原因は、各外注台帳と工事未払金台帳との関係を十分に理解していない点に存する。すなわち、被告会社においては、業務課で作成される下請支払明細表(外注台帳)に、各外注先からの請求金額と、その時点で現場監督によるチェックを経て支払い相当とされた支払金額とが記入され、経理課で作成される工事未払金台帳には、下請支払明細表の支払金額が請求金額であり、かつ支払金額であるように記載されるため、外注先からの請求金額と支払金額との差額である未払金額は、外注台帳によってのみ把握できるようになっているところ、被告人は、毎事業年度末において、各下請業者と話し合って改めて未払金額を確認し、これを工事未払金台帳のみに未成工事支出金として計上した上、翌事業年度に支払うことにしていたのであるから、このようにして計上された未成工事支出金は、外注台帳に記載されていなくとも実際に支払われているのであり、原判決は、これを架空外注加工費と誤認したものである。」

との控訴趣意に対し、

「しかしながら、関係証拠によれば、原判決が認定しているように、被告会社の下請先に対する外注加工費の支払いは、毎月二〇日締切で、出来高に応じて下請先から下請代金を請求させ、これを現場の責任者において査定した後、業務課において前渡金等を差し引いて支払額を決定し、翌月一〇日経理課においてその支払いをすることとなっており、したがって、支払決定額が請求金額をかなり下回る場合も多いこと、業務課においては、毎月各下請先ごとにその請求金額と支払金額等を明らかにするための外注台帳(下請支払明細表)を作成しており、同課で決定された下請代金の支払いに対する事項は、すべて外注台帳に記帳される仕組みになっていたこと、被告会社の下請先は、被告会社から支払われる代金によってその経営を維持している零細業者が多く、これらの下請先に対する代金は、おおむね翌月一〇日に支払われ受領されており、二か月以上も支払われずに放置される例はほとんどなかったこと、被告会社における架空外注加工費の計上は、昭和四九年三月期の決算に際して、被告人が、未払いの架空外注加工費を計上して利益を少なくし、交際接待費などに使用する裏金を造るように指示したことから始まり、昭和四九年度及び同五〇年度においては、会社の規模を大きくするための多額の交際接待費等を注ぎ込んだため、主として期末において、中には期中においても多額の架空外注加工費を計上するに至ったこと、右裏金は簿外の金銭出納帳(符号1、2)によって管理されていたこと、以上の事実が認められるとともに、所論のいうように、下請先の要求により支払金額の追加が合意され、あるいは工事注文者の単価の遡及的値上げを見越した支払金額の増額が約される事例があったとしても、それが広範に存在したことを窺わせる証跡はなく、そのようにして決定された支払金の支払が長い間滞っているというような事態は、ほとんどあり得ないと考えられるのである。そうだとすれば、原判決が、工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かを判断するについて、それが外注台帳に記帳されているかどうか、特段の事情がないのに、工事未払金台帳に計上後その支払いが遅れていないかどうかを重要な基準としたのは相当であって、当裁判所もこれを首肯することができる。そこで、以上説示したところを前提として、以下各下請先ごとに、原判決の事実認定の当否を判断する。」

と判示している。

(二) 原判決は、被告会社のような土木を主体とする建設会社における下請代金の取決め方、支払方法等の特異な実態に関する理解を欠き、またこれに付随して、下請支払明細表と工事未払金台帳との関係が特異なものであるところから、この関係についても理解を欠いているため、まず冒頭の総論部分において重大な誤りを犯しているのである。

本来工事未払金台帳は、貸方に下請業者からの請求金額を工事名ごとに記載し、借方に右請求金額に対する支払金額を記載し、その差額が未払金額として表示される仕組みになっているのが通例である。

このことは、右工事未払金台帳は、物品販売業者の買掛金台帳に相当するので、その記帳方式は、同じであると言える。

ところが、被告会社では原判示のごとく、「毎月二〇日締切りで、出来高に応じて下請先から下請代金を請求させ、これを現場の責任者において査定した後、業務課において前渡金等を差し引いて支払額を決定し、翌月一〇日、経理課においてその支払をすることとなっていた」のであるが、前記工事未払金台帳は経理課において記入していたもので、その記入方式は、業務課において決定した支払額と工事名を記載するのではなく一括して「未成工事支出金、工事代」として、請求金額となし、これを貸方に記入し、支払金額を借方に記入する方式であり、下請先からの真の請求金額は、業務課において記入していた下請支払明細表(外注台帳)だけに記載されていたのである。

したがって原判示のとおり「支払決定額が請求金額をかなり下回る場合も多かった」のは当然のことである。

建設工事のうち特に土木工事においては、下請業者に対して最も強い発言力を持っているのは、現場の責任者である。下請業者から請求に対し何とか理由をつけて支払金額を低く抑えようとするのが、工事の出来ばえだけでなく、下請業者の経営内容まで知り尽くしている現場責任者である。現場責任者は下請業者の実状を鋭く観察して一方的に支払金額を決めるのであって、一般に現場責任者の優劣によって、当該工事の収益に影響を生じると言われるのも右のような理由によるからである。

下請業者の方では請求金額を下回る支払金額が決定されても、仕方なく引き下がらざるを得ないのが土建業界の実状であり、このようなことは社会一般の常識である。

原判決のいうように被告会社の下請先は、被告会社から支払われる代金によってその経営を維持している零細企業が多い。このことは間違いない。このような業者なればこそ、請求金額を下回る支払金額が決定されても、早く支払を受けることが先決である。決定された支払金額に不満を述べて支払の時期を引き延ばされては一層困ることになるからである。

従って原判決のいうように「下請先に対する代金は、おおむね翌月一〇日に支払われて受領されており、二ケ月以上も支払われずに放置されることは殆どなかった」のも当然である。

ただその支払金額は、請求金額ではなくて現場責任者が定めた支払決定額である。

原判決はかなり下回る場合も多かったと、自ら認めている請求金額と支払金額との差額について、いつそれが支払われたというのであろうか。工事未払金台帳だけをみれば残高は殆どの場合零と考えられる。そうすると差額は、現場責任者の支払金額の決定によって債権が放棄されたという見解なのであろうか。そうとしか理解の仕様がない。しかしそのような契約を証する物的証拠もなければ関係者の供述もない。

もしそうであれば、原判決は、証拠によらないで重大な事実を推定によって認定したことになり、審理不尽の譏りを免れないのである。

右の場合下請業者が簡単に差額の債権を放棄する筈はない。

この場合の解決は結局事業年度末においてトップ同志の間で端数のない金額の支払をもって結末をつける内容の話合いがなされるのが慣例である。

原判決は「下請先の要求により支払金額の追加が合意され、あるいは工事注文者の単価の遡及的値上げを見越した支払金額の増額を約される事例があったとしても、それが広範(広範囲の誤りと考えられる)に存在したことを窺われる証跡はなく、そのようにして決定された支払金の支払が長い間滞っているというような事態は、殆どあり得ないと考えられる。」というが、請求金額と支払決定額との間に差額がかなり存在したことは、弁護人が原審において、下請支払明細表と工事未払金台帳とを対比した証拠説明書(昭和63・2・29付及び昭63・10・13付)によって明らかである。

原判決が支払決定額を請求金額をかなり下回ることが多いという認定をしたのは、右帳簿の対比によるものと思われるが、そうであれば支払金額増額の約束がなされるのは当然であるばかりでなく、その範囲はかなり広範囲に及ぶことも自明の理である。

被告人が未払の架空外注加工費を計上して利益を少なくし、交際接待費などに使用する裏金をつくるよう指示したことと、請求金額と支払決定額との差額を支払うこととは無関係のことであって、右差額をもって未払架空外注費を計上したものではないのである。

原判決は、第一審判決の「工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが、架空か否かを判断するのは、<1>それが外注台帳に記入されているか否か<2>特殊の事情がないのに右計上後その支払が遅れているかなどの点が重要な判断基準となる」という判断をそのまま肯認しているが、前記の工事未払金台帳の貸方には工事名の記載がないので、下請支払明細表(外注台帳)に記入されているか否かを確認することは必要であるが、第一審判決は、右明細表に記入されている請求金額と工事未払金台帳の貸方欄記載の金額との間に差額の存在することには全く気付いていないかもしくはこれを無視しているのである。従って前記<2>の判断は全く無意味なものと言わざる得ない。

このような第一審判決を認容した原判決には重大な事実誤認のあることは明らかである。

2.各下請先に関する誤り

(一) 坂本組こと坂本勇の昭和四九年度分一〇〇万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「外注台帳によれば、坂本組関係の昭和四九年度(同四九年六月一〇日以前の分は不明)の請求金額と支払金額との差額は一四万五〇六〇円であるのに対し、工事未払金台帳に昭和五〇年三月三一日付で未成工事支出金として一〇〇万円が計上されているが、この一〇〇万円は、被告人が坂本勇との間において昭和五〇年三月末における請求金額と支払金額との差額の調整精算について話し合った上、未払金額と決めたものである、右差額一四万五〇六〇円に比べると多額ではあるが、資料が欠けている昭和四九年五月分、六月分にも差額があったものと推定されるので不自然ではなく、右一〇〇万円は、架空外注費ではなく、その実額である。原判決が、右一〇〇万円のうち七五万円については、坂本組から請求があり、支払決定のあった一二九万五〇〇〇円のうち七五万円を差し引いた五四万五〇〇〇円のみを工事未払金台帳に記載し、二五万円については、雑収入二五万円を計上することによって帳簿上の処理をしたと判示しているのに対し、工事未払金台帳の借方に記載されている右一二九万五〇〇〇円は、外注台帳の収入五〇年六月一〇日付支払金額七五万円(神戸建設現場)及び五四万五〇〇〇円(玉井企業体)の合計一二九万五〇〇〇円を支払ったものであり、雑収入二五万円は右未成工事支出金一〇〇万円と関係がない」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、工事未払金台帳の坂本勇の昭和五〇年三月三一日欄の貸方に未成工事支出金一〇〇万円の記載があり、この一〇〇万円を含む一七四万円が次期繰越となっていること、他方、外注台帳には一〇〇万円についての記載がないこと、外注台帳には、昭和五〇年六月一〇日付で所論の指摘するとおり一二九万五〇〇〇円の支払決定があるが、工事未払金台帳には同年五月三一日未成工事支出金・工事代として貸方に五四万五〇〇〇円(支払決定があった七五万円と五四万五〇〇〇円合計一二九万五〇〇〇円のうち七五万円を差し引いた額)、同年九月一一日雑収入として借方に二五万円の各記載があることが認められる。

以上の事実に照らし、関係証拠を検討すると、工事未払金台帳の昭和五〇年六月一〇日の借方に記載されている一二九万五〇〇〇円は、所論のいうとおり、外注台帳に同日付で記載されている同額の支払金額(二口を合計したもの)を支払ったことを示すものであるが、工事未払金台帳のこれに対応する貸方の記載としては、そのうちの一口五四万五〇〇〇円が記載されているのみであって、他の一口七五万円の記載はなく、別に雑収入二五万円を借方に計上することによって、工事未払金台帳の同年三月三一日貸方に記載された未成工事支出金一〇〇万円の帳簿上の処理をしたことが明らかであり、これに加えて右一〇〇万円についての記載が外注台帳にないことを併せ考えると、右一〇〇万円を架空外注加工費であると認定した原判決の認定は相当である。所論に沿う被告人の供述は、これに裏づける資料もなく、右帳簿の記載状況に照らしても到底信用できず、右一〇〇万円を全額実額であるという所論は、採用できない。」

と判示した。

(2) 坂本勇に関しては、昭和五〇年三月終了事業年度における工事未払金台帳には僅かに同年三月三一日の記載がなされているに過ぎず、また、下請支払明細表は、坂本勇だけの分は作成されないで他の下請業者の分とともに「その他下請支払明細表」の中に記載され、しかも昭和四九年四・五・六・一〇の各月分及び昭和五〇年二月分は欠落しているので、資料自体が不完全である。

原判決は、このような不完全な証拠の中から、工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の貸方に、工事名を特定しないで未成工事支出金として一〇〇万円の記載があることを取上げ、右記載があるのに下請支払明細表の中にはこれに見合う支払決定額の記載がないことをもって右一〇〇万円は架空計上であるというのであるが、各事業年度末においてトップ間の話合いによって精算として未払額を決定するものであるから、下請支払明細表の中の金額のどれとも一致しないことは当然である。

弁護人の昭和六三年二月二九日付証拠説明書によっても明らかなように、資料が存在する昭和四九年七・八・九・一一・一二の各月、昭和五〇年一・三の各月分の下請支払明細表だけによっても、坂本勇から請求金額のうち一四五、〇六〇円は未払となっているのである。

工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の貸方欄には前記一〇〇万円のほかに六一〇、三〇〇円及び一二九、七〇〇円の記載があるが、そのうち一二九、七〇〇円も一〇〇万円と同じく下請支払明細表にはこれに見合う記載がない。

この段階で前記の少なくとも一四万五〇六〇円の未払金はどのように処理されたのか明らかでない。

そうだとすると一〇〇万円だけが架空外注費だと断定することは独断といわねばならない。因みに比較的資料が揃っていると思われる昭和五〇年四月一〇日から昭和五一年三月一〇日までの間の坂本組の下請支払明細表によれば、請求金額合計七、八〇二、五一五円に対し、支払決定額の合計は六、九三九、九二〇円で差額八六二、五九五円が未払となっているが、工事未払金台帳にはこれに該当する記載がなくその処理は不明である。

下請業者からの請求がなされたときは、被告会社においては、支払債務が発生したものとみるべきであり、値引きや債権放棄の手続がなされないかぎり、税法上被告会社の工事未払金として認容されるべき筈である。

請求金額や工事名を登載していない工事未払金台帳の記載をもって直ちに架空工事未払金の計上であるというような判断は到底なし得ないところである。

原判決の前示判断は誤ったものといわねばならない。

(二) 三京工業所こと西沢一郎の昭和四九年度分一五〇万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「外注台帳によれば、三京工業所関係の昭和四九年度の請求金額と支払金額との差額は一四七万六三一〇円であり(外注台帳に支払金額のみが記載され、これに対応する請求金額の記載のないものは、当審証人望月弘の証言によって支払金額と同額の請求があったものとして算出した。)、昭和五〇年度の請求金額と支払金額との差額は、二一八万九九七四円であるところ、被告人は、吉沢一郎との間において、右各差額の調整精算について話し合い、昭和四九年度分について未払金一五〇万円、同五〇年度分について未払金一五〇万円をそれぞれ認めた上、一〇七万六一六〇円の値引きを認めさせたのであって、昭和四九年度の一五〇万円は、原判決のいうように架空外注加工費ではなく、全額その実額である」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠による、工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の欄に貸方に未成工事支出金として、一二〇万四八七〇円、三万三〇〇〇円の記載に続いて、五〇万円と一〇〇万円の二口合計一五〇万円の記載があり、二七三万七八七〇円が次期繰越となっているが、外注台帳にはこの合計一五〇万円の二口について対応する記載はないこと、外注台帳には、昭和五一年一月一〇日四二万三八四〇円(九件の工事代の合計)の支払金額の記載があるが、工事未払金台帳には、これに対応する記載はなく、同年三月三一日一五〇万円から右金額を差し引いた一〇七万六一六〇円が雑収入・値引として借方に計上され、別に貸方に未成工事支出金として一五〇万円が計上されていること、そして、右昭和五一年三月三一日計上の一五〇万円については、西沢一郎が昭和五一年三月五日ころ被告人の依頼により被告会社の佐野市郎に渡した白地の領収書を用いて、同年八月一二日付で領収書が作成されていることが認められる。右事実に加え、西沢一郎が大蔵事務官に対して、昭和四九年度において計上されている右一五〇万円は実際に下請した工事代金ではなく被告会社に請求できる性質のものではないと供述していることを併せ考えると、右一五〇万円が架空の外注加工費であり、右に認定したように、工事未払金台帳の貸方に工事代金四二万三八四〇円を記帳せず、一方で一〇七万六一六〇円を雑収入・値引きとしてその借方に記入することによって帳簿上の処理をしたことが明らかである。(工事未払金台帳の借方に実際に支払われた工事代金四二万三八四〇円が記入されていない《その記入によって同帳簿の記載は完全な整合性を備える》のは、何らかの事情に基づく脱漏と考えられる。)。所論に沿う被告人供述は、西沢の供述その他関係証拠に照らして信用できず、他に右昭和四九年度の一五〇万円が架空の外注加工費であることに疑いを抱かせる証拠はない。」

と判示した。

(2) しかしながら控訴趣意書として主張したように下請支払明細表によれば、三京工業所関係の請求金額と支払金額との差額は、昭和四九年度において一四七万六三一〇円、昭和五〇年度において二一八万九九七四円であること、これについては、値引もしくは債権放棄の事実が存しないことは明白であり、昭和四九年の事業年度末に工事未払金台帳に記載されている五〇万円と一〇〇万円の二口が下請支払明細表に記載がないことは、さきの坂本組の例示を始め他の例と比較しても何ら不合理の点はなく、これをもって架空外注費と認定することができないことも明らかである

原判決は「外注台帳には昭和五一年一月一〇日、四二万三八四〇円の支払金額の記載があるが、工事未払金台帳にはこれに対応する記載はない」というが、右外注台帳には、支払金額(この場合は請求金額と同じ)四二三、八四〇円に対し、前払金額三〇万円、一三、四〇〇円、十条倉庫資材立替分一、四四〇円、ガレージ料四、〇〇〇円、安全協会費五、〇〇〇円の合計三二三、八四〇円を差引いた一〇万円を差引支払金額と記載していて、右一〇万円については工事未払金台帳の昭和五一年一月一〇日の欄の借方に精算として計上されているのであって、原判決はこの記載を見落として牽強付会の解釈をしているのである。

西沢一郎が大蔵事務官に対して「昭和四九年度において計上されている右一五〇万円は実際に下請けした工事代金ではなく被告会社に請求できる性質のものではない」と供述していることと、前記下請け支払明細表の請求金額と支払金額との間に差額の存することとの間に矛盾が存することは何人も否定できないところである。

西沢一郎の方では、昭和五〇年三月三一日現在において、右差額を未収入金として公表計上していなかった場合には、西沢自身の過少申告となり更正決定を受けることになるから、その後の大蔵事務官からの質問に際して、右のような供述をすることは十分に想定される。そして税法事件においてはこのような想定が正しいとされることは常識であり、これによって前記の矛盾の根拠も解明できるのである。

原判決はあまりにも第一審判決擁護に傾きすぎ事実誤認を重ねているものといわねばならない。

(三) 堤組こと堤梅雄の昭和四九年度分三五五万円及び同五〇年度分一六六五万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「第一審判決がこれらを架空外注加工費と認定していることに対し、それらは、いずれも架空外注加工費ではなくて、その実額であると主張する。その証拠として、堤組に対する昭和四九年度分の外注加工費については、請求金額に対して七九九万二九一〇円少ない支払いがなされ、昭和五〇年度分のそれについては、請求金額に対して一九八四万二二八七円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、堤梅雄との間において、昭和四九年度分については、同五〇年三月末ころ差額について話し合い、三五五万円を未払金とすることに決めたものであり、昭和五〇年度分については工事未払金台帳の貸方に、未成工事支出金として、原判示のとおりの記載があるけれども、前年度において八〇〇万円弱の差額を三五〇万円で話をつけ、当年度においても、毎月請求金額より少ない支払いが続けられ、その差額が前記のような多額に達していた堤組との関係にといては、工事未払金台帳に未成工事支出金として右のような記載がなされたとしても、直ちにこれを架空外注加工費ということはできない。」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によれば、堤組との関係では、工事未払金台帳に昭和五〇年三月三一日の貸方に、未成工事支出金として一五〇万円と二〇五万円の二口合計三五五万円の記載があり、外注台帳にこの二口に対応する記載はないこと、また昭和五〇年七月三一日の貸方に、未成工事支出金として、八六五万円、一五〇〇万円の二口合計二三六五万円が、同五一年一月六日の貸方に、同じく三〇〇万円が計上されており右二三六五万円及び三〇〇万円は外注台帳に記載されていないこと、並びに以上の各未成工事支出金について、それぞれ原判決が認定しているとおりの帳簿上の処理がなされていることが認められる。そして、右認定事実に更に関係証拠を併せて考察すると、原判示昭和四九年度分三五五万円及び昭和五〇年分のうち一六六五万円の各未成工事支出金が架空外注加工費と認められることは原判決の説示するとおりである。被告人の供述中には、所論に沿うような話し合いにより未払金が決められたという趣旨の供述があり、また原審証人堤梅雄の供述中にもそれに沿うかのような部分があるが、原判決の指摘するように、その計算の具体的根拠は明らかでなく、それに沿うように帳簿上の処理がなされるなど経理上の徴憑もなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であって、到底右認定を左右するに足りない。」

と判示している。

(2) 堤組こと堤梅雄は、被告会社の大手下請業者であって、立替金・貸付金・前払金等支払に際して複雑な相殺勘定がなされていたことは下請支払明細表によって明らかである。

堤組から被告会社に対する請求金額と被告会社の支払金額との間に、昭和四九年度においては七、九九二、九一〇円(但し昭和四九年四月から七月までの四ケ月分の下請支払明細表が欠落している。)昭和五〇年度においては一九、八四二、二八七円という巨額の差額が存したことは明らかである。

要するに堤組に対する前記のような請求金額と支払金額との間における多額の債務は堤組において水増請求をしているものでないかぎりこれを零と認定すべき根拠は全く存しない。

従って原判決のように架空未払外注費の計上が認定されるならば、他方において当然前記差額を未払外注費と認定しなければ片手落ちの譏りを免れない。

(四) 株式会社旭基礎工事の昭和四九年度分二五〇万円及び同五〇年度分二五〇万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「第一審判決は右各二五〇万円を架空外注加工費であると認定しているが、右はいずれも実額であって、旭基礎に対する昭和四九年度分の外注加工費は請求金額に対して六七万六九〇〇円少ない支払いがなされ、同五〇年度分のそれは、請求金額に対して二三七万五八〇〇円少ない支払いがなされていたところ、被告人は旭基礎との間において、右各差額の調整精算について話し合った結果、右各年度について各二五〇万円を支払うことで妥結し、これを工事未払金台帳の貸方に各未成工事支出金として計上したものである」

との控訴趣意に対して

「関係証拠によると、工事未払金台帳の旭基礎工業名義分の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に未成工事支出金二五〇万円の記載があり(旭栄興業口座への誤記訂正として、同年一〇月三一日付で旭基礎の口座に転記されている。)外注台帳にはこれに対応する記載はないこと、そして工事未払金台帳の同年一二月三一日の旭基礎の口座の貸方に、支払決定のあった四二八万七六〇〇円から二五〇万円を差し引いた一七八万七六〇〇円のみを未成工事支出金として計上し、その余の金額は計上されていないこと、右二五〇万円の未成工事支出金に対応する旭基礎の下請工事は存在しないこと(旭基礎は被告会社から東海道線草津圧入工事のため草津BOR工事を下請けしたことがあるが、その工事については昭和四九年四月一〇日一五〇万円の支払いを受けて決済し、その後、右圧入工事に関して、追加工事や補修工事をしたり、代金請求をしたことはない。)、昭和五一年三月三一日付で工事未払金台帳に旭基礎に対する未成工事支出金として、二〇〇万円、五〇万円の二口合計二五〇万円が計上されているが、右二五〇万円についても外注台帳にその記載がないこと、右二五〇万円は昭和五〇年度分の決済に際して架空計上を指示したのに基づいて計上されたものであることが認められる。そして、右事実によれば、右未成工事支出金は架空であることは明らかである。所論のいう未払金支払の交渉妥結を認めるに足る証拠はなく、また被告人の供述する東京竹の塚の工事の経緯を検討しても、前記各二五〇万円を架空外注費とした原判決の認定を左右するに足るものはない。」

と判示している。

(2) 旭基礎との間においても、請求金額と支払金額との間に控訴趣意指摘のような差額があったことは、下請支払明細表によって明らかである。

旭基礎に外注した東海道草津圧入工事は、原判決指摘のとおり、昭和五〇年三月三一日以前に工事が完了しその代金決済も終わっていたが、被告会社が右工事以前に旭基礎に下請けさせていた竹の塚の工事が七五パーセント程度で未だ完了していなかったのに完工したものと誤って二五〇万円を支払ってしまったので、被告人は旭基礎の了解のもとに草津圧入工事の未払金に記帳替えをしたものである。

旭基礎関係においても、原判決のように架空未払外注費の計上が認定されるのであれば、他方において前記差額を未払外注費として認定しなければならないのは当然である。

(五) 池田組こと池田武雄こと張武雄の昭和四九年度分一〇〇万円及び同五〇年度分五〇〇万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「第一審判決はこれらを架空外注加工費と認定しているが、これらはすべて外注加工費の実額であって、その根拠は、池田組に対する昭和四九年度分の外注費は、請求金額に対して一〇八万〇六三一円少ない支払いがなされ、同五〇年度分の外注費は、請求金額に対して四七四万九六九四円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、池田武雄との間において、右各差額の調整精算について話し合った結果、昭和四九年度分について一〇〇万円、同五〇年分について五〇〇万円をそれぞれ工事未払金とすることで妥協が成立したものである。」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・工事代として、四九〇万九三一〇円に続いて、一〇〇万円の記載があり、外注台帳にはこの一〇〇万円に対応する記載のないこと、外注台帳には、同年一〇月一一日付けで、池田組から近畿幹線工事代金三七二万円と三万九〇〇〇円の請求があり、前者については一〇〇万円、後者については三万九〇〇〇円全額が保留となり、前者のうち二七二万円が支払額として記帳され、更に同一工事については別欄に工事未払金一〇〇万円が支払額として記帳(右保留分に該当するものと認められる。)されているのに対し、工事未払金台帳には、これに対応するものとして同年九月三〇日欄の貸方に二七二万円のみを記帳し、帳簿上の処理をしていること、また、昭和五一年三月一日工事未払金台帳の貸方に池田組に対する未成工事支出金として二九三万円及び二〇七万円の二口合計五〇〇万円が記帳されていること、右五〇〇万円については外注台帳に記載がないこと、右五〇〇万円は、池田組が被告会社から下請けした枚方第二近幹第二東部ライン工事について、池田武雄が契約金額では採算がとれないとして、被告人にその増額方を申し入れたところ、被告人から支払えるかどうか分からぬが、一応請求書を出してくれと言われて右金額の請求書(二通)を被告会社に差し出したこと、しかし、被告会社では、右のとおり未払金台帳の貸方にこれを記帳したが、池田組に対してはその支払いをしていなこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、右昭和四九年度分一〇〇万円及び同五〇年度分五〇〇万円について、これらをいずれも架空外注加工費であるとした原判決の認定は正当であるということができる。当審における事実取調べの結果をも含めて関係証拠を検討しても、所論のいうように、被告人と池田武雄との間において、右各金員を工事未払金とする旨の合意が成立した事実はないと認めざるを得ない。」

と判示した。

(2) 工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に一〇〇万円の記載がなされた時点において、池田組の請求金額と受領金額との間には、八、〇二六、三四九円の差額が存在していたことは外注台帳によって明らかであって、差額の処理について一〇〇万円の工事未払代金を計上しても何ら不合理は存しない。

外注台帳には、同年一〇月一一日付で、近畿幹線工事代金三七二万円と-三九、〇〇〇円の請求があり、前者については一〇〇万円、後者については三九、〇〇〇円全額が保留となり、前者のうち二七二万円が支払額として記帳されていることは原判示のとおりである。

ところが原判示は別欄の工事未払金一〇〇万円を支払額として加えられているのが、同一工事の保留分に該当すると認められるというのであるが、同一工事というのは近畿幹線工事を指しているものと思われ、それならば、第一行目と同じ工事番号・工事名であるから第二行目の記載に倣って「”」「”」とされる筈であるのに、工事番号・工事名を記載せず、単に「工事未払金」と記載されているのである。さらに一〇月一一日付で作成された右の一通の文書の中で、近畿幹線工事の請求金額三七二万円のうち一〇〇万円を保留しながら、さらに同じ一〇〇万円を支払金として掲げることは「保留」とした意味の説明がつかない。

この工事未払金一〇〇万円は、既に同年三月三一日、工事未払金台帳の貸方に従前の未払金の精算金として計上されている一〇〇万円を指すものと考えるのが正当である。

かるが故に昭和五〇年一〇月一一日付の外注台帳の支払い金額は三七二万円であるのに、九月三〇日付の工事未払金台帳には一〇〇万円を差引いた二七二万円を貸方に計上されているのは当然である。

また、外注台帳によれば、被告会社は、昭和五〇年四月から同五一年三月までの間において、池田組から請求額に対して、未払金五、六五七、六六三(昭和五一年二月一〇日支払分四八二、四六〇円は、池田組からの工事代金請求に対する支払ではなくて、従前の立替分を支払に振替えたものである。)があることが明らかであって、事業年度末において被告人が池田武雄とのトップ会談において、今後元請との間の単価改定を見越して、合計五〇〇万円で決済することとしたものであって、原判示のいうように池田武雄が被告人に増額を申し入れたのではなく、請求金額に対する未払金を請求した結果右の範囲で協議がととのったものである。

原判示の事実認定は明らかに誤っている。

(六) 並木組こと並木輝人の昭和五〇年度分五九九万八六〇〇円について

(1) 原判決は、弁護人の

「右金額は実額であって、その根拠は、並木組に対する昭和四九年度分の外注費は、請求金額に対し二二九万六二三〇円少ない支払いがなされ、同五〇年度分の外注費は、請求金額に対し四七三万七三七一円少い支払いがなされていたところ、被告人は、昭和五一年三月末ころ、並木組との間において右差額の精算調整について話し合った結果、五九九万八六〇〇円を未払金とすることで妥協が成立し、これを計上した」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、工事未払金台帳の並木組に関する昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・単価改定分九三万三二〇〇円の記載に続いて、未成工事支出金・工事代五九九万八六〇〇円の記載があり、外注台帳にはこれらに対応する記載がないことが認められる。これに加え、並木輝人の大蔵事務官に対する質問てん末書よれば、同人は被告会社からこれまでに六〇〇万円という大金を一回に貰ったことはなく、昭和五〇年と昭和五一年の各四月に被告会社の業務か経理の人から頼まれて、住所・氏名をボールペンで書き、印鑑を押し、工事内容と金額を鉛筆で書き、工事期間を空白にした請求書を渡したがこの請求書により請求した金額は一銭も貰っていないことが認められることに照らすと、右五九九万八六〇〇円が架空であることは明らかである。」

と判示した。

(2) 外注台帳によれば、並木組に対する未払金は、昭和四九年度分二、二九六、二三〇円昭和五〇年度分四、七三七、三七一円であることは明らかである。

而して工事未払金台帳の昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金単価改定分、九三三、二〇〇円、未成工事支出金・工事代五九九万八六〇〇円と工事名を示さない各記載があり、外注台帳にはこれに対応する記載がないことは原判決のとおりである。

これらの記載は、現場責任者と並木組との間で行われる取決めによるものではないから外注台帳に記載がないことは当然であって、これを異とするに足りない。

事業年度末において、被告人と並木輝人との間におけるトップ会談において、従来蓄積して来た請求金額と支払金額との差額について協議の結果、工事全体を通じて単価改定分として九三三、二〇〇円(外注台帳であれば当然工事別に分けて記載される筈である。)及び未払分として工事名を特定せず五九九万八六〇〇円をもって精算することとしたのである。

第一審判決は、右五九九万八六〇〇円は工事未払金台帳に「第二近幹工事に関する工事未払金」として計上した旨認定し、右工事は昭和四九年度末ころに完成しその工事代金は既に受領済であるから、右金額は架空未払金である旨判示しているが、これは証拠を無視した全くの独断である。

並木輝人は、被告人と右の合意により被告会社に対する債権額が確定しているに拘らず、右合意の時点では現実に支払を受けていなかったので、右債権を公表帳簿に掲載せず、従って所得税の申告漏れとなっていることを追及されるのを虞れたからこそ、国税査察官に対し、被告会社の経理担当者から要求され請求書を渡したが、一銭も貰っていないと述べているのはむしろ同人の供述として首肯できるところであって、これをもって架空外注費の計上と認定することは全く常識に反する。

並木輝人は国税査察官に対し「六〇〇万円という大金を一回に貰ったことはない」と供述しているが、被告会社の経理処理として前記支払金を計上しただけあって、その時点においてこれを支払った旨の処理はなされていないから当然の供述である。

被告会社が過去において、並木組に支払った最高額としては、昭和五〇年七月一〇日、五、七六五、一三一円の請求に対し、五、三〇四、〇〇〇円を支払った分である。

被告会社は、昭和五一年一〇月六日、本件による査察の強制調査を受け、銀行預金等を差押えられ、前記並木組に対する工事未払金を支払うことができなくなった。(このことは並木組だけではない。)

しかし並木組から厳しい催促があり、昭和五五年一月一八日漸く内金として二五〇万円を手形で支払った。ところが並木輝人は被告会社に対し、昭和五五年八月二五日付内容証明郵便をもって、第二近幹工事の残代金等の債権を第三者(高利金融業者)に譲渡した旨通知して来た。

第一審判決が、工事未払金計上後四年通過していることをもって、右の内容証明郵便による債権督促の対象である債権が架空計上であると認定する理由は全く理解できない。

査察の強制調査によって重加算税を含む多額の税を納付しなければならないから倒産の危機に陥る企業の数は多い。

被告会社もその例外ではない。昭和五五年一月一八日になって資金繰りに苦しみながらも漸く内金として二五〇万円を支払うことができたのである。

第一審判決が、前記五九九万八、六〇〇円を第二近幹工事残代金と判示したのは、前記内容証明郵便の表現によったもので、工事未払金台帳にはそのように限定した記載はない。

高利金融業者に債権を譲渡するような性格の並木輝人のことであるから、最後まで債権回収に執着することは間違いない。勿論被告人と並木輝人との間で四年後に内容証明郵便の発送を仕組んだようなことは一切存しない。

並木組に関する第一審及び原判決の事実認定に対しては被告人として最も承服し難い点である。

原判決の事実誤認は極めて明らかである。

(七) 大平組こと大平静雄の昭和五〇年度分二〇六万円について

(1) 原判決は弁護人の

「右金額は、実額であり、その根拠として、大平組に対する昭和五〇年度分の外注費は、請求金額に対して一四万一〇〇〇万円少ない支払がなされていたところ、被告人は、以前被告会社が大平組に大台ケ原・有馬ロイヤルカントリーの橋梁工事を外注した際、大平組に欠損を生じさせて迷惑をかけ、次の工事の機会にその補填を約していたので、昭和五〇年度において淀大橋の工事を外注した際、前記請求金額と支払金額との差額をも考慮し、大平静雄との間で、昭和五一年三月三一日現在の未払金を二〇六万円と取り決めたのであり、そして、右大台ケ原・有馬の工事により大平組に欠損が生じた際、被告人個人で大平静雄に五〇〇万円を貸していたので、同年四月以降、右未払金の支払分をその貸付金の返済に充当することにしていた。」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、工事未払金台帳の大平組に関する昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・工事代として二〇六万円の記載があり、外注台帳にはこれに対応する記載はないことが認められる。そして、大平静雄の大蔵事務官にたいする質問てん末書によれば、被告会社は、淀大橋工事につき右外注費を計上しているが、大平組は被告会社から淀大橋の近くでガス管の布設工事を下請けしたことがあったが、遅くとも昭和五〇年一〇月には工事を終わっており、その未決済代金はなく、昭和五一年三月ころは鳥飼大橋及び三田の現場で松田組の下請けをしていたことが認められる。これらの事実によれば、右未成工事支出金は架空であることが明らかである。右未成工事支出金が大台ケ原・有馬ロイヤルカントリーの橋梁工事の精算金であるという所論に沿う被告人の供述の信用しがたいことは原判決の説示するとおりであり、他に右判断を左右するに足る証拠はない。

と判示した。

(2) 外注台帳によれば大平組の請求に対する未払金は、一四万一〇〇〇円であるが、その他昭和五〇年一〇月一一日付外注台帳によれば、別途山崎班として一六五万円の請求があり、これに対し前払九〇万円(八月一九日・一五万円、八月二八日・一五万円、九月一二日・五〇万円、九月二二日・二〇万円)を差引いた七五万円が支払われる計算になっているが、工事未払金台帳には、その支払の形跡はない。

従って、昭和五一年三月三一日現在における大平組に対する未払金は少なくとも八九万一〇〇〇円であったことが証拠上認められる。

工事未払金台帳の昭和五一年三月三一日の欄の貸方には原判示のとおり未成工事支出金・工事代として二〇六万円の記載があるが、第一審判決判示のように「淀大橋工事」と工事を特定したものではなく、包括的に工事の未成工事支出金として計上されている。このことは被告人が事業年度末において大平静雄との間において最終的に未払金額について合意をした金額であることを示すものである。

従って、この時点において大平組が淀大橋工事を完了していたかどうかが、架空外注費の計上か否かと決める根拠となるものではない。

右二〇六万円について、工事未払金台帳には、淀大橋工事に関する未成工事支出金という記載がないのに、第一審判決も原判決も、大淀工事に関する未成工事支出金と独断し、右計上時点において淀大橋工事は既に完了しているのであるから、右計上は架空計上であるという議論は、一人相撲にひとしく、到底首肯できない。

原判決の事実誤認は明らかである。

(八) エスケー工事株式会社(以下、「エスケー工事」という。)の昭和五〇年度分一〇〇万円、株式会社光映技術(以下、「光映技術」という。)の同年分二五〇万円について

(1) 原判決は、弁護人の

「エスケー工事の一〇〇万円、光映技術の二五〇万円は、被告会社が君津市区画整理事業組合の整理事業に関連する工事を戸田建設株式会社(以下「戸田建設」という。)から受注できるように光映技術に仲介を依頼した際に支払った報酬の前渡金であって、右工事の受注が実現しなかった場合でも右金員の返還を求め得るものではなく、被告会社は右受注の不成功が機縁となって、その後戸田建設を構成員とするジョイントベンチャーから、関西地区における別の工事を受注しているのであって、右合計三五〇万円は工事受注のための経費に当たる」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、工事未払金台帳には、エスケー工事の昭和五〇年度分一〇〇万円について、昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金として、一〇〇万円の記載があり、光映技術の同年度分二五〇万円について、昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金として二五〇万円の記載があるが、外注台帳にはこれに対応する記載はないことが認められる。また、関係証拠によれば、被告会社は、光映技術に対し戸田建設から所論指摘工事を受注できるよう斡旋を依頼し、その報酬として五〇〇万円を支払ったが、斡旋が成功しなかったため光映技術に対しその返還を請求していたが、返還されないままになっていたこと、被告会社では右五〇〇万円の一部三五〇万円を右のとおり経理処理をしたことが認められ、光映技術の代表取締役である原審証人渡辺光もこれを被告会社に変換しなければないものであると明確に述べており、そうだとすると、右五〇〇万円は、被告会社においてその返還を求めることのできる債権であるのは認めざるを得ない。従って、未成工事支出金として計上された右三五〇万円が架空であることは明白である。」

と判示した。

(2) 君津市区画整理事業組合の整理事業に関連する工事を請負った「戸田建設」は、「光映技術」に対し、設計を依頼していたが、光映技術に対する設計資料が不完全であったため、当初作成された設計図の書替えを必要とした。

そこで「戸田建設」は「光映技術」に設計変更を依頼したが、変更設計に関する費用を負担せず、そのため「光映技術」は道路舗装工事については「光映技術」の指名する業者に下請させることを申し入れ「戸田建設」はこれを了承した。

そこで「光映技術」は被告会社を「戸田建設」の特命下請業者として指名することを約したので、被告会社はその報酬として三回に亘って合計五〇〇万円を支払うとともに、変更設計図により請負金額三億五〇〇〇万円の見積書を提出したところ、右事情を知らなかった「戸田建設」の現場所長が、被告会社よりも見積金額の低い地元業者に請負わせてしまった。

被告会社では、光映技術に対し本来返還を求め得べき性質の金ではないが、右のような結果となったためせめて一部でもと返還を求めたが、「光映技術」の方では既に公表に収入金として計上しているので返還できないというので返還を求めることを断念し、「戸田建設」幹部に抗議したところ、今後関西方面で工事があるときに被告会社に下請させるという約束を取りつけた。

その結果その後「戸田建設」を構成員とするジョイントベンチャーから神戸市ポートアイランド等の工事の発注を受けることができたのである。

勿論被告会社はその後においても「光映技術」から報酬の返還を受けたことは全くない。

渡辺光は、被告会社からの照会に対しては、前記五〇〇万円は収入金として公表計上済であるから返還できないと答え、第一審公判廷では返還しなければならないものであると供述している。

右証言が正しいものであれば当然返還すべきであるのに実行していないことを併せて考察すると、渡辺光は当時被告会社からの返還請求に対して拒否し、そのため被告会社側が返還請求を断念したという被告人の主張が客観的事実に合致するものと考えられる。

二、機械の購入代金による架空原価について

1.原判決は、弁護人の

「別紙目録記載の物件(以下、「本件機具」ともいう。)は、いわゆる堀進機構に付随する消耗の著しいもので、短期間に除去されるものであるから、当初から消耗品として処理したものである。このような処理は、土木業界において、多くの業者によって行われている。仮に、これを減価償却資産として処理したとしても、破損による廃棄の際に、除却損を計上することになるので、本件機具を、消耗品として処理したことを否認して減価償却資産として修正するならば、これに伴ってこれらの物件のうち昭和五〇年三月末及び昭和五一年三月末に既に破損して存在しなくなった物件について除却損を計上しないで本件機具の使用によって得られた収益のみを取り上げ、本件機具の損耗を無視すれば所得計算における費用、収益対応の原則に反することになるところ、オーガーヘッドは昭和四九年一〇月二二日及び昭和五一年二月二八日各一個が補充されているので、各時点においてオーガーヘッドについて一個宛除却損が発生していることが明らかである。更に、仮に、本件機具が減価償却資産に該当するとしても、本件機具のうち

<4> ヘッドツメ(住友電光製) 八個(四四万円)

<5> ハイテンションボルト 二〇本(三万円)

<6> スクリューパッキング 一〇枚(三〇〇〇円)

<7> ヘッド弁 七〇本(七〇〇〇円)

<8> ヘッドツメ 一四個(七万円)

は、いずれも耐用期間が極めて短く、かつ一個一〇万円以下のもので、法人税法施行令一三三条の少額減価償却資産に該当し、その取得価格を損金に算入することが法律上認められておるものであるから、被告会社が損金として処理したことに何ら不正はなく、この点について原判決の事実誤認は明らかである。」

との控訴趣意に対し、

「そこで、検討するに、

(一) 関係証拠によると、被告会社は、昭和四九年度分において、昭和四九年四月アースオーガーK八OHを三六五〇万円で、昭和五〇年二月アースオーガーD一二OH一式を六〇〇〇万円で、昭和五〇年度分において、昭和五〇年9月アースオーガSMD八OHを一二〇〇万円でそれぞれ購入したことが明らかである。

所論は右機械に装着される別紙目録記載の機具は消耗品であるというが、これら(ただし、次項(一)で消耗品と認めたものを除く)は、右機械の部品であってそれぞれその機械本体と一体となっており、経理上もいずれもその機械本体と一体で処理するべきであると認められ、これらが減価償却資産のうちの工具に該当し消耗品に当たらないとした原判決の認定は相当である。

(二) 別紙目録一の<5>ないし<7>は、いずれもアースオーガーK八OHの部品であって、磨耗、破損等により消耗が激しいものであるところ、そのうち、本来機械本体と一体となるものは、当然、経理上もその機械と一括して処理されることとなり、その部品は消耗品に当たらないと解すべきである。しかし、補修用の予備として購入した部品については、消耗が激しいことに加えて、その金額も少額であり、その数量も特に多量でないという事情があれば、これらを消耗品と認めるべきである。このような見地から関係証拠を検討すると、同目録記載の一の<5>のうちの一五本、<6>のうちの五枚、<7>のうちの一本はいずれもアースオーガーK八OH一体として減価償却資産となるものであり、その余、すなわち、一の<5>のうちの五本(七五〇〇円)、<6>のうちの五枚(一五〇〇円)、<7>のうちの一本(六九〇〇円)はいずれも消耗品と認めるべきである。この点について原判決には事実誤認があるといわなければならない。次に、同目録一の<4>及び<8>もまたある程度消耗が激しいことも認められるが、金額等に照らしてこれらを消耗品と認めるのは相当ではなく、その機械本邸と一体として処理すべきである。

(三) 所論は、別紙目録<4><5><6><7><8>の各物件は法人税法施行令一三三条の「少額の減価償却資産の取得価格の損金算入」の規定に該当するというが、これらの物件(2項において消耗品と認定したものを除く。)は、右機械本体と一体として処理すべきものであるから、少額の減価償却資産には当たらず、法人税法施行令一三三条は適用の余地はない。また、所論オーガーヘッドが昭和四九年一〇月二二日及び昭和五一年二月二八日に各一個補充されているので、各時点において一個ずつ除却損が発生している旨主張するが、それらを購入して補充したことは認められるけれども、所論主張の時点においてオーガーヘッドを各一個ずつ廃棄したことについてこれを認めるに足りる証拠はないので、所論は採用できない。」

と判示した。

2、ところで、第一審判決別紙機具目録のうち<3>のオーガーヘッド三個(一一二万円)の中には、その部品であってそれぞれの機械本体と一体となっている爪一〇個が装着されているので、この爪一〇個は原判示のとおり経理上その機械と一体で処理すべきものであるが、<4>のヘッド爪八個は補修用の予備として別個に購入したものであり、且つ一個当たり五五、〇〇円相当であるから、減価償却資産には該当せず、消耗品と認定されるべきである。<8>のヘッド爪一四個(七万円)も同様である。

なお、ヘッド爪が補修用の予備として次々購入されたことは、昭和五三年四月二六日付弁護人作成の『原判決別紙「機具目録」と、検第八九号確認書との対比』と題する表のうち、ヘッドツメの購入状況によって明白である。

原判決は、右<4>及び<8>の主張につき、補修用の予備として購入したことを否定すべき根拠が全くないのに、た易く右主張を排斥して、僅かに<5><6>の主張を認め、<7>に関しては、七〇本のうち六九本(六、九〇〇円)が消耗品であって減価償却資産に該当しないとの弁護人の主張に対し、七〇本のうち一本につきその主張を認め、金額だけは弁護人主張の六、九〇〇円をそのまま認容するという独断にして且つ杜撰極まりない判断をしているのである。

また、オーガーヘッド二個に関しては、その後昭和四九年一〇月二二日、一個(六〇万円)が、昭和五一年二月二八日、一個(六五万円)がそれぞれ購入されているので、右各時点で最初の二個は一個宛廃棄となり、その補充のため購入したもので除却損が発生していると認めるのが常識であるのに、原判決は、これを認める証拠はないというのである。

原判決の右の諸点に関する事実誤認は明らかである。

三、交際費接待費について

1.完成工事原価組み入れについて

雑費組み入れ主張分について

原判決は、弁護人の

「<3> 昭和四九年一二月二六日 四五万円

<4> 同 年同月二八日 四〇万円

<5> 昭和五〇年三月二九日 三〇万円

<6> 同 年三月一三日 一二五万円

<8> 同 年一二月二二日 二〇八万円

については、いずれも被告会社が日本鋼管工事又は吉村建設工事から下請した工事の現場において、被告会社の現場監督の入手が足りなかったので、右各会社の従業員が度々その代行をし、被告会社は右の労務提供に対する報酬の意味で右のように現金を支払ったものである、もし右労務提供が行われなかったら被告会社としては下請契約に則り、別に現場監督を雇い入れて配置するか、受注量を減少して調節しなければならなかったものであり、被告会社では、右と別に、右従業員らに対して中元または歳暮として相応の品物を贈っているのであるから、右現金をたまたま八月、一二月に支払ったとしても(<3>は三月である。)、それらは中元または歳暮に該当するものではない、また、それらを具体的計算によって算出した資料がなく、それらが一見高額のように思われるとしても、被告会社としては別に現場監督を雇い入れて夜間の勤務に配置するのに要する費用を考え、それよりも少額であることを念頭において支払っているのである、従って、これらは雑費に該当するものであるのに、第一審判決が交際接待費に該当するとしたのは事実誤認である」

との主張に対し、

「関係証拠によれば、<3><4><6><8>はいずれも日本鋼管工事の従業員に対してそれぞれ原判決摘示の各年月日に渡したものであって、具体的には、<3>は同社の石井に全額を、<4>は同社の長塚に三〇万円、同田中に一〇万円を、<6>は同社の神代に三〇万円、同長塚、松本に各二〇万円、同田中、青井、森本、木原、渡辺に各一〇万円、同山田に五万円を、<8>は同社の長塚、松本に各三〇万円、同木原、神代に各二〇万円、同社の田中・青井、山田・堀井に二人宛各二〇万円、同畑辺・武・稲田・同馬越・浦中・是岡、同・森本、市坪・渡辺に三人宛各一五万円、同草柳に五万円、同松岡・岡田・田中、加藤、柳原ほか一名に三人宛各九万円をそれぞれ渡したことが認められるところ、これらの金銭の支払われた時期がいずれも八月と一二月であること、受領者がいずれも被告会社の重要な受給先である日本鋼管工事の従業員であること、支払った金額の根拠が明らかでないこと等に加え、これらがいずれも裏金から支払われているものであることに徴すると、これらの金額は被告人が取引先の関係者に対する贈答等のため支出したものであって、交際接待費に当たるとした原判決の認定は相当である。また<5>は、原判示年月日に吉村建設工事の桝本に対し謝礼として渡したものであるところ、原審証人桝本安蔵の供述によれば、被告会社のための現場監督の代行をしてやったのは本来の自己の勤務時間内のことで長時間のものではなく、右謝礼の額は吉村建設工業から貰う給料の一か月半に当たることが認められ、これについても、原判決が、被告会社に対するアルバイトの報酬としては極めて高額であると判断し交際接待費に当たるとした認定は相当である。その他右認定を左右するに足る証拠はない。」

と判示した。

(2) 本件に関する支払を原判示に従って表にすると次のとおりである

<省略>

被告会社では、日本鋼管工事の社員である右の人々に対しては、いずれも盆暮に、別途中元・歳暮の贈答品を贈っている。

従って右以外に中元・歳暮の贈り物をする必要は全くない。

もし原判示のいうように、取引先の関係者に対する贈答であれば、贈り先ならびに贈答額が右表のように毎期変動するようなことはあり得ないし、右のような高額で、しかも現金で渡すようなことは、交際接待費として社会的儀礼の範囲を著しく超えるものであって、超一流企業においても行われていない。このことはまさに社会の一般常識といわねばならない。

僅か四、五〇〇万円の資本金の被告会社において、従業員が営々として稼いだ収入の中から、直接対価関係にない交際接待費として、いくら裏金からの支出であっても、前記のような多額のものを支出する筈はなく、その支出は対価を考慮して行われたものと考えるのが常識である。

日本鋼管工事は、被告会社の重要な元請先である。同社からの受注のための工作費としてなら理解できるが、前記のような多数の現場監督に対して受注工作費を配るような必要はない。

結局被告会社の現場監督の代行としての労務提供に対する報酬以外には考えられないことである。

原判決は、第一審証人桝本安蔵の供述によれば「被告会社のため現場監督の代行をやったのは、本来の自己の勤務時間内のことで長時間のものではなく、右謝礼の額は吉村建設工業から貰う給料の一か月半に当たることが認められ、これについても第一審判決が被告会社に対するアルバイトの報酬としては極めて高額であると判断し、交際接待費にあたるとした認定は相当である。」というが、このことを裏返せば、被告会社が桝本に対し同人が勤務先の吉村建設工業から支給される給料よりも高額の交際接待費を桝本一人だけに支出したということを肯認するものであり、このようなことを肯認することはあまりにも建設業界の実状を無視し、現実離れをした判断であると断言できる。

本件については課税庁において、前記各支払受領者に対し、給与等の受領として所得税の更正をなすとともに、被告会社の雑費として処理するのが、正当である。

ところが、課税庁は受領者が鉄鋼業界の大手である日本鋼管(現NKK)の子会社である日本鋼管工事の従業員であるため、受領の事実が表沙汰になることを回避することに協力し、受領者に対する課税をせず、法理を曲げて弱小企業の被告会社に振替えたものと考えられる。

この点においても原判決の事実誤認は明らかである。

2.一般管理費組み入れ主張分について

(一) 福利厚生費組み入れ主張分について

(1) 現判決は、弁護人の

「<2> 昭和五〇年 六月一一日 四万四六九〇円

<3> 同 年 同月二〇日 一万円

<4> 同 年 同月二二日 七五万円

<5> 同 年 同月同日 五万二〇〇〇円

<6> 同 年 同月同日 一万八七四〇円

<7> 同 年 同月同日 一一万四七三〇円

<8> 同 年 同月二四日 二万四〇〇〇円

<9> 同 年 同月二〇日 二六万円

同 年 同月二七日

<10> 同 年 同月三〇日 八二六〇円

<11> 同 年 七月三日 一四万九八四〇円

<12> 同 年 同月九日 五万一〇〇〇円

これらについては、いずれも従業員の人間関係を良くし、士気を高め、もって従業員の効率的な働きによって会社業務の円滑な進行を目的として支出されたものであるから、福利厚生費に当たるものであるにもかかわらず、原判決がこれらを交際接待費であると認定しているのは事実誤認である。」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠によれば、<2>ないし<8><10>ないし<12>は、いずれも、それぞれ裏金から支払われたものであり、その内容を見ると、<2>は三崎清々館にリボン代として、<3>は受付手伝いの祝儀として、<4>はプランニング・オフィス・メイクに一〇周年祝賀会アトラクションの費用として、<5><8>は貸衣装店ワタベに、<5>では三崎の貸衣装、白足袋代として、<8>は北山、森下の貸衣装代として、<6>は祝賀会タクシー代として、<9>は被告会社社員に対する記念品代として(社員五二名に一人一個五、〇〇〇円)、<10>はロイヤルホテルに祝賀会室料、日本鋼管工事に対する電報代として、<11>は「くらびら」「都観光」「キャラバン」「平八」にいずれも被告会社の特定幹部歓送迎会の費用として、<12>は「井筒」「キャラバン」「ゴーストップ」にそれぞれボーリング大会の際の費用としてそれぞれ支払われていることが明らかである。これらのうち<11><12>を除くものは、いずれも被告会社創立一〇周年記念祝賀会の費用であり、<12>も右祝賀会についての慰労のためのものであるから、これも右祝賀会に伴う費用というべきである。そこで、右祝賀会についてみるに、関係証拠によると、招待した客は、日本鋼管工事等被告会社の取引先、取引銀行等金融機関、建設業協会、会計事務所、法律事務所各関係者、県議会議員ら一九〇名で、うち一〇六名が出席し、また、被告会社関係では、正社員五二名の外アルバイト若干名が出席しており、出席者のおおよそ三分の二は招待客であることが認められる。従ってその行事全体が被告会社の顧問等を招待してこれを接待する趣旨のものであったと見るのが相当であり、いずれも裏金から支出していることをも併せ考えると、原判決がこれら(<11>を除く)の支出をもって福利厚生費とみることができず、交際接待費であると認定したのは是認できるといわなければならない。<11>についてはその使途の内容に照らして、福利厚生の目的による会合の費用とみることはできない。」

と判示した。

(2) 原判決は、右のように<11>の一四万九八四〇円を除く、一三〇万三四二〇円は、被告会社創立一〇周年記念祝賀会における飲食代を含む費用であること、右祝賀会出席者一九〇名のうち一〇六名が接待客で、残り八四名は被告会社の関係者であることを認定している。

ところで租税特別措置法六二(一)――九は次のように定めている。

社内の行事に際して支出される金額等で次のようなものは交際費に含まれないものとする。

(一) 創立記念日・国民祝日・新社屋落成式等に際し、従業員におおむね一律に社内において給与される通常の飲食に要する費用

(二) 略

従って右通達によれば、一三〇万三四二〇円の一九〇分の八四に相当する五七万六二七〇円は、被告会社の交際接待費等に含まれないものであって、裏金からの支出であるかどうかは何ら関係がない。

右通達を無視して、弁護人の主張全部を排斥した原判決の事実誤認は明らかである。

(二) 旅費交通費組み入れ主張分について

(1) 原判決は、弁護人の

「昭和五〇年九月三〇日の田中タクシー代金一万六〇〇〇円は、被告会社の滋賀主張所が使用したタクシーの代金を同所長の妻の経営する飲食店「光代」のチケットを借用して支払っていたものについての月末精算分であって、同所の交通費であるのに、第一審判決がこれを交際接待費と認定したのは事実誤認である。」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠によると、被告会社は、「光代」に昭和五〇年九月三〇日タクシー代一万六〇〇〇円を支出していること、同日「光代」に七万円を支払っていること、「光代」は京都祇園のクラブであることが明らかである。所論のいうように被告会社滋賀出張所で使用したタクシー代を京都のクラブのチケットで払うのも不自然である上、同出張所が「光代」のチケットを使用していたとするならば、帳簿上他に同様の記載があってしかるべきであるのに、そのような記載は見当たらず、この日又は月だけチケットを借りたというのも真実味に欠けており、同日七万円を「光代」に支払っているのは、同店で取引先を接待した費用の支払いであり右一万六〇〇〇円は、その際客をタクシーで送った費用で接待費に含まれると認められる。」

と判示した。

(2) 本件タクシー代は、昭和五〇年九月三〇日に支払われているので、九月末における月末精算分としての支払であるのか、原判決のいうように同日取引先を接待した客をタクシーで送った費用であるのかは、一万六〇〇〇円という金額が当時における一回分のタクシー代として相当であるか否かを考察すれば容易に判別できるところである。

当時の基本料金は二八〇円であって、一万六〇〇〇円のタクシー代は到底一回分とは認め難く、原判決の判断は、現在のタクシー代金を基礎においてなされたものと思われ、そのため事実を誤認しているのである。

(三) 諸会費組み入れ主張分について

(1) 原判決は、弁護人の

「<2> 昭和四九年一〇月二五日 二〇万円

<6> 昭和五〇年 二月二六日 二〇万円

<8> 同 年 四月 五日 一六万九〇〇〇円

<9> 同 年 七月一八日 一〇万円

これらはいずれも被告会社の業務に直接関係のある竹公会、建設業協会、水公会、十日会の会合等の会費、参加費用等であるのに、原判決がこれを交際接待費に当たると認定したのは事実誤認である。」、

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、被告会社は、いずれも建設業協会に、昭和四九年一〇月二五日<2>の二〇万円を、昭和五〇年二月二六日<6>の二〇万円を、同年七月一八日<9>の一〇万円を、十日会に同年四月五日<8>の一六万九〇〇〇円をそれぞれ支払っていること、その使途につき、<2>は「社長伊豆行き経費」として、<6>は「社長城崎行き費用」として、<8>は「スーパーソニックツーリースト・マニラ香港旅費暁建設分(割り引き分)」として、<9>は「沖縄海洋博参加費」として(ただし、領収書の宛名は暁建設株式会社となっているが、他と同様、被告会社の支出負担したものとみるべきである。)支出がなされていることが認められる。してみると、これらはいずれも建設業協会等の行う旅行に参加する費用で、不定期の支出であり、金額も不足で、旅行先も温泉地、博覧会の開催地等の観光地あるいは海外であって、これらの費用が建設業協会等の会費であるとみることはできず、建設業協会等の会員相互の親睦を図った遊興観光目的の旅行の費用として交際接待費に当たるものとみるべきである。」

と判示した。

(2) ところが、法人税法基本通達九-七-一五の三は、「所属する協会、連盟その他の同業団体等に対して支出した会費の取扱いについては、次による」としたうえ、(1)において通常会費について定めるとともに、(2)において「その他の会(同業団体等か次に掲げるような目的のために支出する費用の分担額として支出する会費をいう。)については、前払費用とし、同業団体等がこれらの支出をした日にその費途に応じてその法人が支出したものとする。」と定め、

イ.開館その他特別な施設の取得又は改良

ロ.会員相互の共済

ハ.会員相互又は業界の関係先等との懇親等

ニ.政治献金その他の寄附

を掲げている。

また法人税基本通達九-七-六は「役員又は使用人の海外渡航に際して支給する旅費(支度金を含む)は、その海外渡航が業務の遂行上必要なものであり、かつ、渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り旅費として経理が認められる。」と規定している。

右各通達によれば弁護人主張の支出は、交際接待費としてではなく、諸会費もしくは雑費・旅費等として損金に算入されるべきである。

然るに原判決は、右各通達を無視し、通常会費以外はすべて交際接待費であると速断し、事実を誤認したものである。

四、貸付金について

1.野口佐治兵衛に対する貸付金分について

(一) 原判決は、弁護人の

「<1> 昭和四九年一二月二三日 五万円

<3> 昭和五〇年 八月一三日 五万円

<4> 同 年一二月二二日 一〇万円

これら三回の被告会社からの野口にたいする支払いは、被告会社が橋梁工事に優れた技術を有していた暁建設株式会社を買収した後、被告会社において施行した橋梁工事等(例えば大台ケ原)について、長年にわたる優れた知識と経験を有している野口から技術・工事施工について相談に乗ってもらったり、現地へ来てもらって直接指導を受けたりしたので、そのことに対する報酬として裏金の中から支払ったものであり、相談料、指導料(実質はあくまで報酬である。)として常識として適当として思われる額を支払ったものであって、被告会社は当時野口に対して盆暮れにはこれら現金とは別に相応の品物を贈っており、原判決が右相談料・指導料を交際接待費であると認定したのは事実誤認である。」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠によると、被告会社がいずれも裏金から野口佐治兵衛に昭和四九年一二月二三日<1>の五万円を、昭和五〇年八月一三日<3>の五万円を、同年一二月二二日<4>の一〇万円をそれぞれ支払っていることが明らかである。これらは、いずれも支出の時期が盆暮れであり、<3><4>はいずれも日本鋼管工事関係者らに対して金一封を送るのと一緒に処理されており、野口に対する支出も日本鋼管工事関係者に対するものとその性質を同じくするとみられるのであって、すべていわゆる盆暮れの贈答とみるのが相当であり、交際接待費とみるべきである。原審証人野口佐治兵衛は原審公判廷で、相談料として受け取った旨述べ、原審及び当審における被告人質問の結果も同旨であるが、野口と被告会社との間には報酬契約があったのでもなく、野口が大台ケ原に行ったのが暁建設の社長を退き会長となった昭和四六年ごろの二、三年後だというのであって、いつであるのかすら明確ではなく、<1><3><4>との因果関係も不明確であって、これらを労務提供に対する報酬だとは到底認められない。

と判示した。

(二) 野口佐治兵衛に対し、盆、暮には相応の中元・歳暮の贈答品を贈っていた被告人会社として、これとは別に交際接待費として現金を贈ることはあり得ない。

野口から橋梁工事について技術及び工事施工の指導を受けたり、相談に乗ってもらったことに対する報酬以外の意味は存しない。

このことは前記日本鋼管工事関係者の労務提供に関する報酬と全く同旨のものであって、原判決は、いずれの事実についても事実を誤認しているのである。

課税庁において、野口に対する報酬として被告会社の損金に算入し、野口に対して所得税の更正をなし税を徴収するという事務上の煩を避け、被告会社の交際接待費として取扱い、限度額超過に持込み被告会社に課税し、被告会社から税を徴収するという安易な方法を選んでいることを看過してはならないのである。

2.光映技術(代表取締役渡辺光)に対する貸付金分について

(一) 原判決は、弁護人の

「<2> 昭和五〇年 三月二二日 一〇〇万円

<5> 昭和五一年 二月二八日 一五〇万円

については、戸田建設発注の君津市区画整理事業工事を請け負うことについて仲介をした光映技術に対して斡旋料として支払ったものである、光映技術は右区画整理事業の設計監理を行っていた地位を利用して、副業的に戸田建設の下請けを斡旋してその報酬を稼いだものであって、これらは光映技術にとっては収入(益金)となるが、被告会社では営業経費(損金)となるものであり、原判決がこれらを貸付金と認定したのは事実誤認である、なお、被告会社は結果的には右工事を受注することはできなかったが、その後、これを機縁として戸田建設等を構成員とするジョイントベンチャーによる神戸ポートアイランドの工事を受注しておる。」

との控訴趣意に対し

「関係証拠によると、被告会社は、昭和五〇年三月二二日<2>のエスケー工事分一〇〇万円を、昭和五一年二月二八日<5>の光映技術分一五〇万円を各支出していることが明らかであり、これらは、架空外注加工費についての判断として前に説示したとおり、その返還を求めることが相当である。」

と判示した。

(二) ところが、前記金額は被告会社から(株)光映技術に対する貸金と認定されるべきものでないことについては、前記一の(八)で述べたとおりであり、同会社もこれを借入金ではなく、営業収入として処理していることによっても明らかである。(別添一、(株)光映技術が被告会社へ送付して来た法人の事業概況説明書の追記事項参照)

五、完成工事高について

1.原判決は、弁護人の

「被告会社が株式会社日本基礎(以下「日本基礎」という)から受注した工事は、掘削した地下部分に破壊防止のためパイル埋め及び土留めをする工事であるから、これらの工事をすべて完成させて相手方に引き渡した日をもって、その収益帰属の時期となすのが当然であるところ、本件においては、受注先である日本基礎が倒産し、右工事が中断されたまま続行されなかったのであるから、その収益計上の時期は被告会社が工事現場から機械、人員を全て引き上げた昭和五一年五月ごろとすべきであるのに、原判決が、右工事は全体として未完成ではあるが、完成された部分については出来高払いを受けて代金が債権として確定しているとし、その確定した代金部分は、当該事業年度の益金に帰属するとしたのは事実誤認である」

との控訴に対し

「関係証拠によると、被告会社は、昭和五〇年八月二五日日本基礎から、藤沢駅前都市開発事業のうち、建物を建築するため掘削した地下の土留め、パイル埋め工事を契約代金三三五〇万円で下請けしたこと、立退問題のこじれ等の事情により受注した工事の着工が遅れたところ、翌五一年三月日本基礎が倒産したため、被告会社は受注工事を中断し、同年五月には最終的に受注工事から手を引いたこと、被告会社は日本基礎から工事代金として、昭和五〇年一二月額面一三〇万円、同五〇〇万円、翌五一年一月額面六六〇万円、更に日本基礎が手形不渡りを出し倒産した後の同年三月二三日額面一一三〇万円のいずれも日本基礎振出の約束手形四通額面合計二四二〇万円を受領したこと、被告会社は、立替金との相殺金額二二〇万円をこれに併せた二六四〇万円を完成工事高として収入に計上していたのに、これを除外し、その完成工事原価二五四五万四三一一円を他の工事(三重県企業庁から受注した分)の原価として振替計上したことが明らかである。右事実に照らすと、被告会社は、右受注工事を完成させておらず、その引き渡しも未了であることは、所論のいうとおりである。しかしながら、本件のごとく、昭和五一年三月末現在において工事が中断され、再開の目ども立っていない状況にある一方、前示のとおり日本基礎から手形四通を工事代金として受領しており、従って、日本基礎に対する債権は確定していて、被告会社も、昭和五〇年度につき、右のとおり右受注工事原価を他の工事に付け替えして経理上自らピリオドを打っているのであるから、その時点において、これを完成工事とみるべきであり、従って、右二六四〇万円を完成工事高として計上すべきである。この点につき、原判決の認定判断は相当である。」

と判示した。

2.原判決は、被告会社は、日本基礎から下請けした工事完成させておらず、その引渡しも未了であることを認めている。

而して法人税法基本通達二-一-五は、請負による損益については、「物の引渡しを要する請負契約にあっては、その目的物の全部を完了して相手方に引き渡した日の属する事業年度」に計上すると定めているのであるから、被告会社が昭和五一年三月三一日現在、日本基礎から受領していた同社振出の約束手形四通額面合計二四二〇万円及び立替金との相殺金額二二〇万円を合わせた二六四〇万円については、損益に計上すべきものではない。従って右時点において日本基礎に対する債権が確定していたとなし、右二六四〇万円を完成工事高として計上すべきであるとする原判決は前記通達に反して事実を誤認するものである。

かりに百歩を譲って右二六四〇万円を完成工事高として計上すべきであるとしても、日本基礎は、昭和五一年三月二〇日(第一審判決認定)において、手形交換所において取引の停止処分を受けて倒産していて、右債権について担保物の提供を受けていない被告会社としては「貸金等について、その債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合には、貸倒れとして損金処理ができる」わけである(法人税基本通達九-六-三)。

原判決は右の通達にも反するものであって、原判決のような解釈に立てば、倒産による連鎖反応を一層強めるような結果を導くものであって到底首肯できない。

この点においても原判決は事実を誤認している。

六、関係工事原価(原判示八)について

1.原判決は、弁護人の

「暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である昭和五一年三月三一日の二回にわたり、城陽新幹線今池等合計一五件の工事につき、実際は被告会社がその下請け業者を使って施工したにもかかわらず、被告会社が暁建設に発注し、暁建設が施工したように操作したことは、被告会社のみではなく、他社においても広く一般に何ら疑問なく行われているものであり、被告会社の所得のみに目を向けるとその所得を子会社に振り替えたことになり、被告会社の法人税を軽減することになるが、他方において子会社の利益が増加するので、仮に子会社が欠損状況にあったとしても、青色申告にかかる繰越欠損金額が減少することになるから、全体からみれば法人税のほ脱犯となるものではなく、また、被告会社及び暁建設の代表者を兼ねる被告人が、被告会社より暁建設に支払うべき建設機械等の賃借料の意味を含めて利益操作を行ったのは、一般に行われている例に従ったものであり、法人税のほ脱犯を構成するものではなく、かかる行為に対して概括的故意の理論を適用する余地はなく、原判決が被告人にほ脱の故意を認めたのは、事実を誤認し、ないしは法令の解釈適用を誤っている。」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠によると、被告会社では暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である昭和五一年三月三一日に受注先日本鋼管工事、工事名城陽幹線今池、工事番号四九〇〇〇外一二件(四九六〇六、四九六一八、四九〇六五、四九六〇七、五〇三〇一、五〇一〇四、五〇八三三、五〇八二六)について、被告会社が受注して下請業者を使って施工していたのに、被告会社が暁建設に発注し暁建設が下請業者を使って施工したように操作して、完成工事原価二二六八万三三〇二円を水増し計上したこと、また暁建設は、昭和四六年ごろに被告人が代表取締役となった後、急激に社員が退社し、昭和五〇年当時には、実質的には工事の施工能力に全く欠ける状態で(昭和五一年五月ころにおける暁建設の社員は業務担当の小林と経理担当の高田の二人だけで、二人とも被告会社の従業員であった。)暁建設の名目で工事をすることがあっても事実上は被告会社においてすべて行っていたこと、被告人は暁建設の経理内容を良くみせるため、被告会社の利益を暁建設に付け替えるよう、高田利一に指示し、同人は反対したが、結局これを行ったものであることが明らかである。右事実によれば、被告会社は昭和五〇年度分において右水増し計上した分だけ所得を減少させ、法人税を免れたことは明白である。被告会社と暁建設とか所論のいうような関係にあるとしても、施工能力に欠ける暁建設に名目だけ下請けさせて架空の外注費を完成工事原価に計上したことは、たとえ、他の目的による場合であっても、法人税のほ脱罪を構成することにならない疑いが無く、被告人の犯意に欠けるところもない。原判決には所論のいう事実誤認も法令解釈適用の誤りもない。」

と判示した。

2.しかしながら本件におけるような経理操作は親会社と子会社との間において一般的に行われており、特に被告会社では、暁建設所有の建設機械等を使用していること、暁建設は、橋梁工事の技術にすぐれており、子会社である暁建設が官公庁工事の請負の指名を受けるためには、技術だけでなく、ある程度の業績を上げていることが必要であること等から右のような経理操作をしたものであって脱税の目的でしたものではないから、原判決の事実認定は誤っている。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反ないし事実誤認があり、破棄しなければ著しく正義に反し、かつ憲法三一条に違反する。

一、原判決は、昭和五〇年度分未成工事支出金からの振替計上に関して弁護人が主張した

「工事番号五〇八三三の工事につき一〇〇万円、同五〇一〇四の工事につき二五〇万円各完成工事原価が過大に計上されているのは、経理担当者の過誤によるもので、法人税ほ脱の故意がなかったのに、第一審判決が、経理担当者の過失行為に概括的犯意論により被告人に故意を認め、刑事責任を問うのは、事実を誤認し、ないしは法令の解釈適用を誤っている。」

との控訴趣意に対し、

「関係証拠によれば、工事番号五〇八三三防衛医大第二期配管工事について、一〇〇万円を工事番号五〇八五四君津市周南地区簡易水道工事の未成工事原価から、工事番号五〇一〇四東部幹線工事について、二五〇万円を工事番号五〇二六八日本鋼管工事大久保、工事番号五〇二七三日本鋼管工事堀川高辻BV切込及び工事番号五〇一三八日本鋼管丸太町(川端一就)の未成工事原価からそれぞれ振替計上していることは明らかである。そうすると、昭和五〇年度分については右三五〇万円は完成工事原価の過大計上となる。これが被告会社の経理担当者の過誤によるものであることは所論指摘のとおりであるが、前示松本鋼機に対する未成工事支出金に関する判断中において説示したとおり、原判決が概括的故意を認定したのは相当であり、原判決には、所論のいう事実誤認も法令解釈適用の誤りもない。」

と判示した。

二、しかしながら、前記完成工事原価の過大計上は、原判決指摘のとおり被告会社の経理担当者の過誤によるものであって、原判示の指摘する松本鋼機に対する未成工事支出金に対する判断、即ち「少なくとも資金作りを命じた被告人の一般的指示に従って、事務担当者が故意にこれをしたと推認するのが相当」というのとは本質的に異なるものである。

原判決の事実認定は被告人の意思とは全く関係のない、経理担当者の単純な過失をもって、被告人の脱税の犯意を認めるものであって、刑法三八条一項、憲法三一条に違反しもって事実を誤認したものである。

第三点 原判決には、憲法三一条、刑事訴訟法三八〇条、三九七条一項適用の誤があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するし、かつ高等裁判所の判例に違反する。

一、原判決は、事実誤認が判決に影響を及ぼすか否かについて、また法令の解釈適用の誤りの有無について次のとおり判示した。

「結局、原判決の事実認定は、前示二「機械の購入代金による架空原価(原判示二)について」の2で説示したとおり、昭和四九年度に関し、目録記載一の<5>ないし<7>の一部について事実誤認があり、また、前示四の1の(二)「会議費組み入れ主張分(原判示五の1の(三))について」で説示したとおり、昭和四九年度に関し、同主張分<7>の一部について、昭和五〇年度に関し、同主張分<25>の一部について、それぞれ事実誤認があるほか、すべて正当であると認められる。右各事実誤認の結果、昭和四九年度において、二万一、九〇〇円、昭和五〇年度において二、〇〇〇円それぞれ所得額が多く、ほ脱額も昭和四九年度において六、一三二円、昭和五〇年度において五六〇円多く認定されていることになるけれども、これを本件各事業年度における所得及びほ脱の額と対比すると、右事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。そうすると、原判決の事実認定には、原判示第一及び第二の各事実に関し、各所得額、ほ脱額につき判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとはいえず、また、判示のとおり、所論主張のような法令の解釈適用の誤りもない。」

原判決は右のように前示して、被告会社京阪工事株式会社を罰金一三〇〇万円に、被告人佐藤を懲役一年、二年間執行猶予に各処した第一審判決を支持した。

二、ところで、原判決が認定した被告人佐藤の行為は、行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に該当するものであり、被告会社については右改正前の法人税法一六四条一項・一五九条一項に該当するものである。そして右改正前の法人税法一五九条は次のとおり規定している。

第一項

偽りその他不正の行為により、第七十四条第一項第二号、第八十九条第二号、第百四条第一項第二号、若しくは第百六条第一項第二号に規定する法人税の額につき法人税を免れ、又は第八十一条第六項の規定による法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者でその違反行為をした者は、三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第二項

前項の免れた法人税の額又は同項の還付を受けた法人税の額が五百万円をこえるときは、情状により、同項の罰金は五百万円をこえその免れた法人税の額又は還付を受けた法人税の額に相当する金額以下とすることができる

また、右改正前の法人税法一六四条一項は次のとおり規定している。

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して第百五十九条、第百六十条、第百六十二条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人または人に対して各本条の罰金刑を科する。

三、右によって明らかなように、被告会社に対する法定刑は(なお、処断刑は法定刑に法律上および裁判上の加重減軽を加えたものとされるところ、法律上の刑の加重には、累加加重と併合罪加重があり、裁判上の刑の加重というものは認められていないのであるから《刑法七二条》、改正前の法人税一五九条二項おける罰金の上限の変更は単に処断刑の変更にとどまるべきものとは解されない。)前記改正前の法人税法一五九条二項によれば、第一審判決の上限は七三、〇五五、七〇〇円となるところ、原判決は前記のとおり第一審判決の逋脱税額を六、六九二円減額した認定をしているのであるから、その法定刑の上限は七三、〇四九、〇〇八円となり、両者の法定刑は異なることとなるのである。

このように本件の場合、犯罪に対する構成要件的評価に直接影響を及ぼす逋脱額が減少し、法定刑が異なることとなったのである。

即ち、第一審判決は、法令適用の前提となる事実関係を誤認したため、異なった構成要件、ひいては誤った構成要件を適用したものであり、即ち認定事実に対して適用すべき法令が適用されず、誤った法令が適用されたものである。

同一法条中の法令適用の誤りではあるが、このように判決に影響を及ぼす場合として刑法二四〇条前段と後段のように法定刑が異なるときは、構成要件的評価も別異なものと解すべきであり、従って、その相互間の適用の誤りは判決に影響を及ぼすのである(福岡高判昭和二四・七・一一高等裁判所刑事判決特報一・四七。註釈刑事訴訟法第四巻一三三頁)。

本件の場合もこれに異なるものではなく、原判決の判断は、右高等裁判所の判例の趣旨に反する。

四、このようにして、第一審判決には、逋脱額の減少という法定刑に直接に影響を及ぼし、同一構成要件内であっても法定刑が異なることとなる事実誤認があったもので、これは金額の多寡には関係なく、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあったものと認められる。それにも拘らず、これを認めなかった原判決は刑事訴訟法三八〇条、三九七条一項の解釈を誤り、ひいては憲法三一条に違反するもので、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

第四点 原判決は、憲法三一条に違反する。

一、原判決は、被告人を懲役一年、二年間執行猶予に処した量刑は不当に重いとの弁護人の控訴趣意に対し

「所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せ検討すると、本件は、被告人が代表取締役をしている被告会社が昭和四九年度分、昭和五〇年度分の二事業年度にわたり、合わせておよそ七、三〇〇万円の法人税をほ脱したという事案であり、ほ脱額は甚だ高額であり、そのほ脱率も四〇パーセントを超えており、特に昭和四九年度分のそれは九〇パーセントという高率であって、犯情は軽視できない。被告人は、被告会社の代表取締役として、経理担当の取締役高田利一らに指示して本件犯行に及んだもので、その責任は重いというべきである。

してみると、所論が指摘する被告会社が本件マスコミによって報道されるなどにより社会的信用を失い、受注が激減し、事業を大幅に縮小せざるを得ず、十分に社会的制裁を受けたこと、被告人は、被告会社を創立して一〇年、営々として、これを中堅の建設会社に成長させたので、前科は、およそ三〇年前の罰金刑前科が業務上過失傷害罪によるものが一件、道路交通法関係のものが二件あるだけであって、本件に至るまでは、善良な市民であったこと、本件後、被告会社は、本件に対する更正決定については全額納付したこと、被告会社が懲役一年に処せられた場合に建設業法二九条二号、同法八条七号、同条五号により被告会社の建設業法による営業許可が取り消されるのを免れたいこと、その他被告人のために酌むべき情状を含めて、諸般の事情を参酌しても、被告会社を罰金一三〇〇万円に、被告人を懲役一年・二年間執行猶予に処した原判決の各量刑はいずれも不当に重いとは認められない。論旨はいずれも理由がない。」

として弁護人の主張を排斥した。

二、しかしながら、第一審判決をそのまま是認した原判決は、以下述べるように憲法三一条に違反するものである。

1.原判決は、被告会社と罰金一三〇〇万円、被告人佐藤を懲役一年、二年間執行猶予に各処した第一審判決をそのまま是認している。

しかしながら、右量刑は以下述べる理由に鑑みると、憲法三一条に違反して不当に重いものである。

被告会社は、建設大臣の許可を受けて建設業を営む法人で、被告人佐藤はその代表取締役である。

ところで建設業法二九条は、

建設大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号の一に該当するときは、当該建設業者の許可を取消さなければならない。

と規定したうえ、同条二号には、

第八条第一号又は第五号から第八号まで(第十七条において準用する場合を含む)のいずれかに該当するに至った場合

を掲げている。

而して第八条には、

建設大臣又は、都道府県知事は、許可を受けようとする者が次の各号の一(許可の更新を受けようとする者にあっては、第一号又は第五号から第八号までの一)に該当するとき・・・は、許可をしてはならない。

第五号 一年以上の懲役若しくは禁錮以上の刑に処せられ、又この法律の規定により、若しくは建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労務者の使用に関する法令の規定で定めるものにより罰金以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者。

第七号 法人でその役員又は政令で定める使用人のうちに、第一号第二号、第四号又は第五号に該当する者・・・・・のあるもの。

と規定されているから、もし被告人佐藤を懲役一年、二年間執行猶予に処した第一審判決をそのまま是認した原判決が確定すれば、被告会社は覊束処分により建設業者の許可を当然に取消され、かつその後一定期間建設業者の許可を受けることができず、その結果会社の生命を断たれることになる。

従ってこの点において、被告人が懲役一年に処せられるか一年未満の刑に処せられるかは被告会社の生死が分かれる重大な問題となるのである。

即ち前者が選ばれるときは執行猶予の長短に拘わらず、被告会社及び被告人にとって過酷な刑となるのである。

あるいは、本判決確定前に被告人が被告会社の代表取締役を辞任して建設業の許可取消を免れる方法が考えられるが、被告会社は被告人によってのみ運営でき余人を以てしては替え難いばかりでなく、昭和六一年七月三一日現在における被告会社の銀行借入金の総額は一二億六〇〇〇万円余の巨額に達し、右借入金全額につき被告人が個人で連帯保証をしているので、もし被告人佐藤が役員を辞任するようなことになれば、金融機関は貸付金の即時返済を求め借入れの継続は不可能となるので、右のような方法をとることはできない。

2.ところで、前記建設業法八条五号の「一年以上の懲役若しくは禁錮以上の刑に処せられ、・・・その刑の執行を終り又は刑の執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者」という規定であるが、刑の執行猶予中の者は、その猶予の期間経過前において法定の取消事由が発生した場合には、何時でも右執行猶予の言渡を取消され、本刑の執行を受けるべき可能性を有する者であるから、無事執行猶予期間を満了したときに「刑の執行を受けることがなくなった」こととなる。

また、執行猶予の言渡を受けた後、無事猶予期間を経過したときは、刑の言渡はその効力を失う(刑法二七条)のであるから、刑の言渡の失効の結果その刑に処せられなかったことになり、刑の言渡に伴うすべての効果が消滅するとされ、また諸種の法令による資格制限もこれによって消滅するとされる(団藤重光・刑法綱要論四六一頁。ポケット註釈刑法第三版一二四頁)。従って前記のような者は、二年の経過をまたず、即時欠格事由から離脱するものと解されるべきである。それにも拘らず、前記建設業法八条五号が「刑の執行を受けることがなくなった日から二年」間資格制限を行うということは、執行猶予の効力の大原則を定めた刑法二七条の規定と矛盾するもので、無効の規定と解されるべきものである。

憲法三一条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と規定されている。右規定は、刑罰を科する場合における法定の手続を保障しているのみならず、「公権力によって自由を制限する場合、たとえば行政上の許可・認可ないしその取消等の場合などにも、やはりそれぞれの性質に応じた公正な法定の手続を要する趣旨と解されている」(宮沢俊義・憲法Ⅱ新版四一六頁)。

3.このように、被告人に懲役一年、二年間執行猶予の判決を言渡した第一審判決をそのまま是認した原判決を確定させることは、本来無効であるべき前記建設業法の規定が自動的に適用され、資格制限により、被告会社の生死を制することになり、行政法規においても公正な法定手続が要求れさるとする憲法三一条に違反するものであり、その量刑が甚だしく不当に重いものである。

第五点 原判決は憲法三九条に違反する。

一、原判決は、量刑不当を主張する弁護人の控訴趣意に対し、前記第四点一、のように判示して弁護人の主張を排斥した。しかしながら、原判決の量刑は憲法三九条に違反し、その量刑は甚だしく不当に重い。

二、被告人は本件査察調査による事実確定に従って重加算税合計二〇、三二二、三〇〇円を賦課されこれを完納した。そしてさらに右事実について本件において懲役一年、二年間執行猶予及び被告会社につき罰金一、三〇〇万円の判決を言い渡された。(別添資料二、三参照)

日本国憲法三九条は、「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。」と規定している。すなわち刑法の不遡及・二重処罰禁止の規定である。

ところで、重加算税の課税要件として、「・・・納税者が、その国税の課税要件として、「・・・納税者がその国税の課税標準等又は税額などの計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し・・・たときは、・・・」と規定されている(国税通則法六八条一項)。一方、法人税逋脱罪の犯罪構成要件として「偽りその他不正の行為により、・・・税を免れ・・・た場合には・・・」と規定されている(法人税法一五九条一項)。従って、重加算税の課税要件と逋脱犯の犯罪構成要件とは理論的には重なり合うものであるから、同一の行為について刑罰を科するとともに、併せて懲罰に相当する重加算税を課すことは前記憲法三九条に違反するとの見解は、必ずしも排斥されるべきものではないと考える。

この点については、既に最高裁判決(昭和三二・四・三〇、民集一二・六・九三八)は重加算税は刑事上の責任を問うものではないから二重処罰に当たらないとしている。

三、しかしながら、重加算税制度が設けられた起源である昭和二四年のシャウプ勧告は、重加算税制度を提唱するに当たって、次のように述べていた。「現在詐欺事件に適用される唯一の罰則は、その適用に起訴を必要とする刑事罰である。詐欺行為は処罰することなく黙過することはできない。そこであらゆる事件に刑事追訴をなす必要から免れるため民事詐欺罪を採用することを勧告する。この罰則のもとでは、納税額の不足が税の逋脱を意図する詐欺によるときは、その不足分のほかに不足分の六〇パーセント相当額が支払われなければならない。この金額は税と同様な方法で徴収され実質的に税の一部となる。」

四、このように、刑事制裁と民事制裁とを別個のものと考えないシャウプ勧告の趣意に鑑みても、実質的には同一行為に対する重加算税と刑罰とを併科することは、二重の制裁を課するものであることは否定し得ない。その意味で、両者の併科は憲法三九条運用の趣意に反するものである。その点において原判決は憲法三九条に違反しその量刑は甚だしく不当に重いものといわなければならない。

第六点 原判決は憲法一四条に違反する。

一、原判決は、量刑不当を主張する弁護人の控訴趣意に対し、前記第四点の一、のように判示して弁護人の主張を排斥した。しかしながら、原判決の量刑は憲法一四条に違反し、その量刑は甚しく不当に重いものである。

二、日本国憲法一四条一項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定している。

右の規定中の差別の内容については、「あらゆる法律上の差別は、国民の政治生活に関するものか、経済性活に関するものかでないかぎり、すべてその社会生活に関するものであるから、法律上の差別は、つねに『政治的、経済的又は社会的関係』における差別であると見るべきである。『差別されない』とは、差別を内容とする行為(法律ないし処分)を違法とし無効とする意である。」(宮沢俊義・憲法Ⅱ新版二七二頁)

さらに差別によって不利益を享受する者が一部の少数者であって、利益を享受するものが多数者である場合でも、またその逆の場合であっても要するに差別は許されないものと解すべきである。

ところで、税法違反事件の処理・処罰については、政治家や大企業所属の身分を有する者は他に比べて著しく寛大な取扱いがなされていることについて幾多の新聞が報ずるところである。

例えば、衆議院法務委員長であった相沢英之議員の株売却益二億円の申告漏れについては、申告漏れの大半は、同代議士が株の売買を親族や友人名義で行った形にして所得税法で定める株式売却益の非課税枠で納めていたというものであり、国税当局の調べで有力銘柄や一部、仕手筋といわれる株式の大量売買がわかったと新聞は報じている。(昭和六三年二・五付読売・・・別添資料四)同代議士は元大蔵省事務次官として在官当時は査察事件処理にも関与した人であるが、右事件の脱税の手段、態様の悪質性や反社会性については本件を遙かに凌駕すると思われるのに、過少申告加算税が課せられただけで、起訴は勿論告発も行われていない。

本件の処分と比べると、同じ日本国民でありながら雲泥の差異が存する。

さらに大企業関係では、「丸紅、一〇〇億円申告漏れ、重加算税一億八〇〇〇万円、四四億円を追徴」(昭和五七・一一・三〇付朝日・・・別添資料五)、「伊藤忠、22億円申告漏れ、54から3年間8億円を追徴・・・重加算税適用」(昭和五八・二・一二付日経・・・別添資料六)「五洋建設、二二億円の申告漏れ、海外工事で不明金・・・重加算税適用」(昭和五八・五・一三付毎日・・・別添資料七)、「75億円の申告漏れ、清水建設2年分、32億円追徴、申告漏れのうち1億円は重加算税対象」(昭和五八・八・二三付日経・・・別添資料八)、「三菱商事、申告漏れ五九億円、海外取引で利益隠し、・・・このうち三億四〇〇〇万円には重加算税適用」(昭和五九・六・三〇付朝日・・・別添資料九)、「兼松江商、申告漏れ二九億」(昭和五八・八・二八付日経・・・別添資料一〇)、「一五〇億円の申告漏れ、石川島播磨、税追徴は七〇億円、・・・うち約七億円は重加算税適用」、「三井物産にも追徴六五億」(昭和五九・一一・七付朝日・・・別添資料一一)、「佐川急便グループ、六〇億円申告漏れ、一部重加算税追徴」(昭和六一・六・一九付読売・・・別添資料一二)、「三菱信託65億円所得隠し、円高逆手、架空取引、重加算税を含め追徴約32億円、(昭和六二・二・二七付読売・・・別添資料一三)、「キャノン所得隠し、パナマの現地法人利用・重加算税を含めて11億円追徴」(昭和六三・六・二一付読売・・・別添資料一四)、「三井信託、所得隠し五億円、東京ディズニーランドホテル用地仲介で、重加算税も含めて約二億七〇〇〇万円追徴」(平成元・六・二八付読売・・・別添資料一五)、「日新製鋼、二四億円の所得隠し、クロム仕入れ値水増し、この九割前後が重加算税の対象となる所得隠し」(平成元・九・二〇付朝日・・・別添資料一六)、「大和証券に追徴一〇〇億、ダミー会社を利用して大口顧客の有価証券売買損を補てん、更正処分の対象となる所得額は百十億円程度、重加算税などを含めた追徴税額は約百億円」(平成元・一二・二四付日経・・・別添資料一七)、「長谷工、二二億円申告漏れ英銀と土地取引で裏金七億円使途不明、国税局一五億円追徴」(平成二・五・八付朝日・・・別添資料一八)、など超大型の申告漏れの事件がいずれも告発されないで税の追徴だけで終わっている。

「円高逆手、架空取引」、「パナマの現地法人利用」「ダミー会社を利用」などの手口は、それぞれの創意による極めて悪質な脱税手段であり、通常これらが重加算税賦課の対象であるとともに告発対象となるものであること、さらにいわゆる概括的犯意説に従って申告漏れのすべてが告発対象となるものであることは明らかであるのに告発されていない。

三、政治家ないし政治家との関連者でもない、又大企業に属しない、いわゆる一般庶民に対する処罰は、いわば切捨御免であって、一般庶民は、その「社会的身分により経済的関係において」明らかに差別されているのである。被告人は、被告会社を創立して一〇余年、孔々として業務に励み、これを中堅の建設会社に成長させ、ひいては日本経済の発展に寄与してきたいわゆる社会的地位のない目立たない庶民である。このような被告人に対し、建設業の許可取消に至るような。苛酷刑罰、制裁を加える必要がどこにあるであろうか。弁護人が本件の量刑に対してどうしても納得できないところである。

このことは単なる処罰を受けた庶民だけのひがみではなくて巷間において広く叫ばれているところであって、国民の総意に従ってこの弱い者いじめは是正されなければならない。

このように不公平は、公平な司法機関によって是正され庶民に対して公平感と国政に対する信頼感が与えられる必要を痛感する。

被告人の量刑は憲法一四条に違反し、その量刑は甚だしく不当に重いと主張する所以である。

以上の理由により、原判決う破棄し、さらに適正な御裁判を仰ぎたく本件上告に及んだ次第である。

以上

別添一

法人の事業概況説明書

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別添二

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別添三

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別添四

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別添五

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別添六

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別添七

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別添八

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別添九

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別添一〇

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別添一一

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別添一二

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別添一三

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別添一四

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別添一五

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別添一六

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別添一七

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別添一八

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